高麗人参はウコギ科の多年生の植物。学名をパナックスジンセンといい、直訳では万能薬の人参を意味します。朝鮮半島は良質な高麗人参を育む気候風土に適していて、 現在正官庄では2200軒の契約栽培農家が日々高麗人参を育てているそうです。栽培年数は1〜6年根までありますが、栽培から6年を経過した6年根だけに、 有効成分である人参サポニン(ジンセノサイド)がバランス良く含まれ、それが高麗人参の最高グレードとして位置づけられています。 正官庄が使うのは、この6年根だけ。7年目からは病害虫などへの抵抗力が弱くなり、成長率も低下して組織が硬くなるため、有効成分が著しく損なわれてしまうとか。そのメカニズムについては、まだまだ謎が多いのも事実のようです。
ストイックなまでに徹底した品質管理の体制
正官庄の工場は、近代的な生産設備と従来の伝統的な手しごとを融合させ、清潔な環境と厳格な管理体制のもとでものづくりが行われています。この日、小林さんは一般の人は立ち入ることができない工場で、一連の製造工程を見学しました。毎年10月、契約栽培農家で収穫され運ばれた生の6年根(水参)を、皮を剥がさず高圧水と超音波で洗浄し、蒸し、天日で15日間乾燥させると、濃い紅褐色の硬い人参に生まれかわります。これが紅参です。
生の人参は、痛みが早いため、収穫後すべての作業が、スピーディに、システマティックに行われています。韓国での高麗人参の総生産量は約2万tだということですが、そのうち1万3千tを正官庄が取り扱っているそうです。「スケールやダイナミックさに圧倒されるわね。この工場のシステムと紅参の効き目は、相関するのだと思います」と小林さんは話します。蒸し時間、温度など、すべては門外不出のトップシークレット。115年以上かけて作り上げてきた創意工夫は、一朝一夕では決して真似できません。それが高品質を裏付ける理由の一つでもあるのです。最先端の技術の一方で、手しごとによる昔ながらの作業も行われているのも特徴です。
熟練した職人たちの手しごとも欠かせない
乾燥した紅参は、細い枝根を切り落とす整形、整った姿を選別する外形選別、光に透かし中身に傷、空洞がないかを確認する組織選別、重量選別などを経て、天、地、良、切などの4グレードに選り分けられていきます。高麗人参自体にも等級があるのに、紅参になってからもさらに厳格に細かく選別されていくというから驚きです。ちなみに、天は全体の3%しかない最高級グレードの紅参とか。それぞれの作業に従事するのは、マエストロと呼ばれるベテラン職人たち。この道一筋30年の強者もいるそうです。こうして選別された紅参は、1箱に10〜15本でパッケージされ、幾十にもハンコを押して封印、缶に納められて、また、抽出液やエキス、粉末、タブレットとして商品になり、全世界に出荷されていくのです。
出来立てのフレッシュな紅参の抽出液をいただく
生薬の文化が根づいている韓国では、缶に入った紅参を求め、写真のような原型をショップでカットしてもらい、24時間かけて抽出した抽出液を持ち帰ることが普通です。(残念ながら日本では、薬事法などの関係で行われていません。)正官庄のウルチロ店に出向いた小林さんは、早速その様子を見せてもらうことにしました。
密度の高い紅参はとても硬く、普段は機械でカットするそうですが、この日は、昔ながらのやり方でカット。韓国のショップにはこのような抽出機が設置されていて、顧客の求めに応じで抽出を行うそうです。出来立てほやほやの紅参100%のフレッシュな抽出液。それをいただいた小林さんは「香りがいいわ。まだ温かくて、おいしい。更に元気が出てきそう」と長時間の撮影をものともせず笑顔で感想をポロリ。居合わせたスタッフも、つい笑みがほころぶのでした。
高麗人参のエキスパートと人参談義
韓国に滞在中に「もっと高麗人参を深く知りたいわ」という小林さんのリクエストで、高麗人参に関する著書が多数あるオクソンジュン教授にお話を聞くことができました。オク教授の著書を紐解きながら、エピソード1での歴史的な話はもちろん、「満州族の武将の愛馬が亡くなった時、高麗人参を飲ませたら生き返った」「筋肉疲労の回復が早いので韓国のアスリート達は正官庄の紅参を愛飲している」「同じ種を蒔いても、気候風土の関係で韓国以外の国では高麗人参が人の形になりにくい」など、オク教授は数々の面白いエピソードを披露。また、小林さんの専門が美容ということもあって「肌がとても美しいと言われた韓国の芸妓ファンジニは、高麗人参の葉をお風呂に入浴していたそうです」とのこぼれ話も。興味深く耳を傾ける小林さんとオク教授の高麗人参談義は、歴史から健康、美容、高麗人参の未来の活用方法などにまで広がり、大いに盛り上がりました。
オクソンジュン教授は、韓国人蔘公社の広報室長、新聞記者を経て、現在は延世大学でPRコミュニケーションを教えているそうです。在職中、高麗人参の資料を集めているうちに、その奥深さ、不思議さなど、高麗人参の魅力にはまり、独自で研究を続けているのだとか。『グレートジンセンストーリー』など、執筆活動を通じて、その魅力を発信。今では韓国で右にでるものはいないエキスパートです。
インタビューは江南にあるカフェ「SAPOON SAPOON」で行われました。正官庄が運営するおしゃれな空間で、紅参入りのカフェメニューが楽しめます。